スイカの施肥法

 施肥の技術はその作物の生理を考慮して、必要な時期に必要な量を与えることであります。

 スイカは播種後、蔓を伸長させ展葉させます。最初に株の充実を図ります。これが栄養成長と呼ばれます。そして、株が充実してくると花芽が分化し開花して実をつけます。これが子孫を残す生殖生長です。生殖生長になると葉で光合成された糖や根で吸収された養水分は主に実のほうへ転流されます。果実は肥大して糖度も高くなってきますが、株のほうは疲弊し蔓も伸長しなくなってきます。成り疲れという現象が起きてきます。

 このようにスイカは生育相が変化していきます。各地各様の施肥法がありますがスイカの生育相には変化はありません。生育環境の違いにより施肥技術を含め対応する技術が変化していきます。

 私が参考にしている「静岡県土壌肥料ハンドブック」より静岡県の施肥基準を紹介します。

 静岡では西部と東部地域しかスイカを営利的に栽培していないので静岡市の施肥基準はありません。また、栽培法がハウス栽培とトンネル栽培の基準しかないので、通常の露地栽培では土質を含めてある程度想像して施肥量を決定します。元肥が少なければ追肥で補えますが、多いとスイカは蔓ボケをして実の付きが悪くなるので、元肥は少な目、追肥の回数を増やして対応します。

1、 スイカトンネル栽培西部地域

土壌 粘質~砂質土(黄色土、砂丘未熟土)
栽植本数 270本~400本(10a)
目標収量 4000kg/10a
施肥基準㎏/10a

施肥時期 窒素 リン酸 カリ 堆厩肥
元肥 14 18 10 2000
定植後20日(追肥1) 5 3 5  
定植後40日(追肥2) 3    
22 21 18 2000

 

2、スイカトンネル栽培東部地域

土質 壌質土(黒ボク土)
栽植本数 600本(10a)
目標収量 6000㎏/10a
施肥基準㎏/10a

施肥時期 窒素 リン酸 カリ 堆厩肥
元肥 3 18 9 2000
着果後10日(追肥1) 2   2  
着果後25日(追肥2) 2   2  
7 18 13 2000

 

 静岡県の東と西で同じような時期にスイカを栽培しておりますが施肥基準はこのように異なっております。施肥量は主に土質による違い、施肥時期は温度の関係でしょう。肥料の種類は元肥に有機配合又は化成肥料、追肥は化成肥料となっております。

 施肥基準の参考としてもう一つの資料を紹介します。

「野菜の養分吸収量」(スイカ・千葉農試トンネル)

目標収量5.7t/10a

kg 窒素 リン酸 カリ 石灰 苦土
養分吸収量 10.9 0.7 13.9 5.9 0.5
吸収比 100 6 128 54 5

 この数値を見ますと、窒素に対してカリウムがよく吸収されていることがわかります。又三要素の一つであるリン酸がほとんど吸収されていないこともよくわかります。リン酸は土壌中で容易に固定され植物に利用されにくい形になるので利用率が低くなります。そのためその分を見積もって大目に与えるようにしてあります。

 多くの野菜では窒素よりカリウムを多く吸収します。スイカは果実に多くの水分をため込む性質よりカリウムを多く必要としています。(植物にとってのカリウムは人間にとっての塩と同じ意味を持ちます)

 一応マニュアル的な施肥の数値は上記のとおりです。しかしこれだけではよくわかりません。数字の背景がわからないからです。このためスイカの専門書を読んでスイカの生理を理解する必要があります。その資料は最新版のものでもよいのですが、私は古い農学書を頼りにします。昔の農業技術者は実物の栽培・観察に非常に多くの時間と手間をかけております。その知見は現在一級の農業技術者に劣るものではありません。スイカの栽培に関しては神田武さんの資料が参考になります。昭和20年代の資料なので絶版になって久しいのですが、参考になる情報が多く記載されております。その一部施肥の項目より紹介します。

「西瓜の栽培技術・施肥」(昭和24年発行)

 スイカは短期作物であるのに一般に多肥を要するものとされ、従来から反当り、窒素成分で7貫以上(26.25㎏)、リン酸4貫(15㎏)、カリ6貫以上(22.5㎏)を施用し反当り生果生産量1,500貫(5625㎏)から1,800貫(6750㎏)を挙げている。然も肥料の種類や3要素の施用の割合等については従来から他の作物に比べてとくにやかましく論議されてきたが、スイカ栽培者は兎角〝天狗“が多くてそれぞれ自己の得意とするところを固執して容易に改善されなかった。しかるに最近は各種肥料の入手が困難となるに及んで肥料の種類よりも寧ろ成分量と施肥法に重点を置いて慎重な考慮を払うに至った。

肥料の種類

 スイカは肥料の種類が直接に果の品質に反映するもので、スイカ市場においてはスイカの食味によってそのスイカの畑は何肥料を施用したかを看破出来るといわれ、又当業者も永くそれを信じて疑わなかった。即ち魚粕を用いたものは皮薄く、肉食鮮紅で甘味最も優り、菜種油粕、綿実粕これに次ぎ、大豆粕に至っては皮厚く、肉食薄く、甘み劣るも反当収重量は最も多い、硫安に至っては最下等の品質のものばかり出来るものと決めてしまって、大豆粕や硫安を使用した栽培者は他の油粕類を使用した組合員から共同出荷を拒否されてきた。スイカは短い期間にどんどん生長してあれだけの収量を挙げるのであるから、多肥を要すると同時に肥効が徐々に、しかもスイカの生育に伴い漸次量を増して肥効が順調に現れた場合に最も品質の優良なものが生産されるのであって、肥料の種類が品質を決定するものではなく結局は施肥法、即ち肥効の現れ方に基因するもので、肥効の現れ方を慮外において一律に5回分施するものとした従来の栽培は、その施用方法を改めない限り、肥料の種類によって品質を左右せられることになる。言いかえれば如何なる種類の肥料でも分解肥効の速度を熟知して、スイカの成長曲線にぴったりと合致する様に施肥の時期と量とを按配して栽培すれば、硫安単用でも決して収量品質が劣るものではない。(中略)

 この見地からすれば窒素肥料に人糞尿を用いても、石灰窒素を施用しても、肥効の現れ方を理想的に按配して分施できるならば差し支えはない理ではあるが、実際問題としては降雨乾湿等の気象条件に支配されて理想的の施用はまだまだ一般の栽培者には望めない。と言って高価な油粕ばかりを使うわけにもいくまいから、肥効が順調に現れるように比較的安価な硫安や石灰窒素を混用することによって有利に栽培することを心がけるべきである。(中略)

 三要素区がよいのは当然であるが、無リン酸区は地上部茎葉はかなり繁茂するが収量が劣り、無カリ区は茎葉、根及び収量何れも劣っており食味も悪い。リン酸は過リン酸石灰で、カリは硫酸カリや木灰で施用すればよいが、堆肥を反当り300貫(1125㎏)以上使用すると収量も多いし蔓割れ病の発生を少なくする効果がある。カリ肥料は結果数を増し、果の肥大をよくするから窒素と同量位は施用したい。特に木灰は出来るだけ多用し反当り90貫(337.5㎏)以上施用することにより蔓割れ病の発生をある程度防止できるから、カリは木灰で施用し不足分を硫酸カリで補うようにするとよい。

施用量

 普通栽培の場合は反当り、窒素7貫(26.25㎏)、リン酸4貫(15㎏)、カリ6貫(22.5㎏)を標準と考えて、これ以下にならぬように準備しなければならない。

肥料配合例(反当り用量)

植物油粕50貫(187.5㎏)、硫安20貫(75㎏)、過石20貫(75㎏)、硫加10貫(37.5㎏)

施用時期

 肥料の施用時期が適切でないと生育が停滞し、或は茎葉が徒に繁茂して、雌花の着生開花が不良であるのみでなく、たとい受精しても落果歩合が多く、初収期が遅れ、収量を減ずる。気象、土質、生育の状況に留意して分施の時期や回数を上手に調節することが大事である。

元肥

 石灰窒素や堆肥は元肥として2~3月中に畝全面に施用し、その他に木灰50~80貫(187.5~300㎏)と石灰50貫位(187.5㎏)は、2~3月畝間耕起の際、畝全面に散布耕転して土壌とよく混和する。これらは特に蔓割れ病の被害防止に大いに役立つものである。

肥土

 播種前10日位の時、盛土の中央に施して種子が発芽後すぐさま養分を吸収し得るようにするもので、肥土が作ってない時は硫安か又は硝安を一山に5匁(18.75ℊ)、過リン酸5匁(18.75ℊ)宛を施用する、盛土に臭気のある肥土や人糞尿、魚肥などを施用するとタネバエを誘致して種子を食害されるだけでなく、幼植物の根を食害し、時に全滅のおそれがあるから注意が肝要である。

追肥1回目

 子葉展開の時、また移植の場合はその活着した頃に盛土の南面傾斜か又は周囲に施用して僅かに土を寄せて、土と混和して置く、全施肥量の約1割を施用する。

追肥2回目

 本葉が3~4枚発生した頃、即ち5月中旬頃に第1回追肥の外側に施用して土を寄せ、最初の盛土の直径の倍くらいの大きさにする。その後も盛土を中心として施肥毎に土を寄せて根群を可及的に土の深層に導くようにし、土寄せ毎のつぎ目に段階ができないように滑らかにして置くことが肝心である。全施肥量の約1割5分を施用する。

追肥第3回

 蔓が1尺5寸位に伸長した時株を中心として半径2尺位を標準として施用耕起し、土と混和して盛土を中心として土を寄せて緩斜面とし、スイカの畝を盛土を連ねて縦に通していわゆる中畝作りをし、畝上幅3尺位には、敷き藁を施して蔓はすべてこの敷き藁の上を這うように蔓直しをする。全施肥量の2割位と木灰30貫(112.5㎏)位を施用する。

追肥第4回

 一番果が親指大、即ち直径5分位(15cm)になった頃、麦刈り取り後に中畦の外側に広く散布施用し、麦の刈株を打起して肥料と土と混和するように操作しながら中畦に向かって土を寄せつけ、全体を通じて株を中心に凹凸のない滑らかな蒲鉾型の本畝作りとする。粗雑な畝作りをして凹凸があると初期の生育はむしろ旺盛であるが、根が土中に蔓延した頃、豪雨などの為窪みに短時間でも湛水すると、その為に根が傷められて障害を起こし、或は蔓割れ病を誘発して収穫間際に全体が倒れるような悲惨なことになりやすい。スイカ圃場の畝作りの巧拙を見れば概ねその収穫が予想されるというも過言ではあるまい。この本畝作りが終われば直ちに畝全面に敷き藁を行う。この時期の追肥を普通一般に玉肥と呼んでおり、全施肥量の3~4割を施用する。

追肥第5回目

 普通一般に追肥は第4回の玉肥で終わりとするのであるが、近頃のように速効性肥料を多く用いる場合には、収穫の末期に至って肥切れをして草勢が弱り末成の果の肥大が悪いので、スイカの草勢や結果状態などを観察して、1番成が径5寸(15㎝)の頃に畝の両側の敷き藁を棒切れなどで持ち上げて薄く散布施用する。病害虫の被害のない限りこの肥料により末成の結果を多くし増産となる。全施肥量の1~2割相当量を追加施用する。

施用法

 スイカの根は非常に繊弱で、しかも地表近くに分布するものが多いから施肥に際しては、肥料の発酵その他の為に根を損傷しないように留意しなければならない。地方によっては肥料を一か所に固めて施し、すぐ覆土せず〝さらし肥“として後覆土し或はそのまま放任する習慣の処もあるが、前述の様に土とよく混和して置くのが安全であるし肥効も早い。

「西瓜の栽培技術・施肥」のまとめ

 スイカ栽培の権威「神田武」さんのスイカの施肥法に関して紹介してきました。ただの機械的な施肥法ではなくスイカの生長生理をよく反映した施肥法の紹介でした。

 施肥の配分をまとめると
成分量で、窒素26.25㎏、リン酸15㎏、カリ22.5㎏です。目標収量は、反歩6トン前後です。
元肥 堆肥・草木灰のみ(石灰窒素を使用する時には主に元肥として施用)
追肥1回目 10%
追肥2回目 15%
追肥3回目 20%
追肥4回目 30~40%
追肥5回目 10~20%

 追肥4回目の玉肥に重点が置かれています。有機質肥料を使用していますが、一度の多量に施用する方法はとりません。

 有機質肥料にも欠点があり、タネバエの発生や土壌中での発酵による障害が当時でも問題にされていました。この対策として肥料の分施が行われていました。発酵肥料(ぼかし肥料)も有機質肥料の過剰発酵防止の観点より作成されたものです。

 神田さんは有機や無機といった施肥の種類よりも、土壌に対する影響をよく考えていたことがわかります。畝作りと肥料の分施、そして土壌表面の管理です。追肥の時に畝に対して盛土していることもわかります。ただの追肥ではなくスイカの根を保護するための作業を行っています。

 当時はまだマルチ資材がないので畝立ての方法と畝の表面の管理に気が使われてきましたが、マルチ被覆した畝ではこの点の問題は解消されます。蔓が巻き付くような資材を展張してあれば畝はマルチ被覆することにより降雨による湛水の被害や過湿・過干の被害より免れます。

 追肥の方法として、マルチ展張後は土壌表層に散布できないので化学肥料を水で溶かした液肥を施用します。動力噴霧器や携帯型ポンプがある現在では省力的で有効な追肥法です。