化成肥料の種類

 なぜか化成肥料は悪く言われることが多々あります。作物の生育障害や過剰施肥の問題では必ず化成肥料がやり玉にあがります。しかし、化成肥料が日本に導入されたのは明治時代と古く大正時代には成分的に肥料の主体を占めるようになってきました。コスト的に安価であり、肥効も早く、(成分的に)反歩当たりの散布量も少ないので作業量も省力化できるメリットが高く評価されたのでしょう。

 こちらの表は農学大辞典より引用しました。大正以後窒素肥料の変遷です。単位は1000t、太字は窒素合計を100とする指数です。

年次 硫安 石灰窒素 チリ硝石 魚肥 大豆粕 その他の植物粕 窒素合計
大正1~5
86
14
29
98
701
166
86.2
  20
3
5
9
53
10
100
大正6~10
123
73
62
91
1154
151
138.2
  17
10
7
5
54
7
100
大正11~15
273
120
52
100
1376
178
192.1
  28
12
4
4
47
5
100
昭和2~6
493
173
49
136
1190
165
235.9
  42
14
3
5
33
3
100
昭和7~11
736
205 47 239 800 188 274.2
  54 14 3 7 19 3 100
昭和12~14
1076 263 32 156 933 181 352.5
  61 14 1 4 17 3 100

 

 この表を見ますと、大正年間までは大豆粕が窒素成分当たり半数を占めています。その後窒素施用量の増加に伴って硫安と石灰窒素などの化成肥料が増加し、施用窒素の半分以上を占めるようになってきます。

 この大豆粕は満州よりの輸入です。現在主に出回っている植物質有機肥料である菜種粕はこの表で見ますと非常に少ないようです。当時の日本では菜種油が食用として用いられていなかったのか、それとも大豆粕が安価に輸入できたのかいろいろと考えてしまいます。

 当時の満州では大豆をドイツに輸出していたようです。ドイツでは大豆油をマーガリンに利用してその絞り粕を家畜用飼料として利用していました。日本では油を搾った大豆粕をそのまま肥料として利用していたので、鈴木梅太郎博士が家畜の飼料として利用し、その家畜の糞を農地に施用する方法を提言されておりました。有畜農法であります。この表に出てくる大豆粕も幾分かは家畜用飼料として利用されていたのかもしれません。

 よく肥料について語られるお話ですが、「昔は有機質肥料が主体で化成肥料はほとんど使われなかった」というものがありますが、これは完全に伝説です。明治初期の生まれの百姓でない限り化成肥料と無縁である農家は皆無です。水田農家、園芸農家共にそうです。

 化成肥料の利用法としては主に、有機質肥料と配合して成分を調整した配合肥料と化成肥料同士で混ぜて粒状に成形した複合化成肥料という形のものです。各メーカーや輸入されたものが多種あるのでどれがどうなのか難しいものですが、原料として使用された単肥の化成肥料をみるとある程度内容が理解できます。
現在入手が容易で私が使用したことがある化成肥料単肥について紹介していきます。

窒素肥料

 植物の生長に一番必要で自然環境では不足しやすい肥料成分が窒素です。硫安の登場により農産物の増産が可能になりました。これまでの功績の割に評価が低い気の毒な肥料であります。

硫安(硫酸アンモニウム)

 かの有名なハーバー博士が空中窒素固定法を発見し(1909年)、ボッシュ氏が工業的に量産(1913年)したことにより「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれる方法で生産されたアンモニアが窒素系化成肥料の出発点です。

 合成されたアンモニアを硫酸で中和して塩の形にしたものが「硫酸アンモニウム」です。他には、塩酸で中和すれば「塩化アンモニウム」で、硝酸で中和すれば「硝酸アンモニウム」です。

 成分は窒素21%のものがほとんどです。水に溶けやすく液肥として使用できます。硫黄を含んでいるので硫黄を好む作物には好適な肥料であります。金額も安く使いやすい化成肥料です。

 欠点として、土壌を酸性化しやすいといわれますが、過剰施肥や長年に渡って塩基性の資材の投入を行っていない園地でない限り土壌酸性化は引き起こしません。

尿素

 戦後日本に導入された化成肥料です。非常に水に溶けやすいので液肥として主に利用されています。保湿剤として化粧品にも使用されています。

 成分は窒素46%のものがほとんどです。窒素成分が高いので成分当たりの価格は窒素系肥料の中で一番安価です。なお肥料取締法では化成肥料ですが化学的には有機物です。現在では行われていませんが、以前は配合肥料の有機含有量にカウントされていました。

 そのままの形で植物に吸収され、土壌内でもアンモニア化成は速やかに行われます。即効性の肥料です。

 果樹農家では、果実の甘さが落ちると嫌われる肥料の一つですが、使い方によっては非常に有効な肥料です。

 私は尿素を液肥として葉面散布、土壌灌注に追肥として利用しています。

石灰窒素

 硫安と並んで古くから利用されてきた化成肥料です。名前のように石灰分を含んでいるので酸度を矯正できます。硫安と比較すると遅効性です。分解過程で硝酸化抑制作用のあるジシアンジアミドが生成されるのでアンモニアから硝酸に変化しにくく肥効が長く続きます。

 成分は、純度により変化しますが硫安と同じくらいで21%前後です。その他の効果として殺草作用(一応農薬登録があります)、病害虫の防除、変わった点では花芽分化の促進などがあります。一般的な利用では肥料効果以外は考慮しません。

リン安(リン酸アンモニウム)

 ホームセンターで販売されている複合化成肥料はこのリン安を原料にしたリン安系複合肥料です。リン酸成分が高いのであまり単肥として使用されることはありません。

 成分は製造法によりかなり変わってきますが、窒素16%-リン酸46%くらいです。

 土壌酸性化の程度は少なく、随伴イオンがリン酸なので電離し難いので濃度障害が起こりにくい特徴があります。リン酸は水溶性で植物に吸収されやすい形です。

 よい点が多いリン安ですが、リン酸含量が高すぎるので必ずその他の窒素肥料と一緒に施用しないとリン酸過剰になります。

 以前はよく元肥に使用していましたが、液体タイプのリン安がありこれを液肥として利用しています。

リン酸肥料

 化成肥料といってもリン酸とカリウムは鉱石から作られます。昔からほぼ全量輸入です。戦時中内地で鉱床の調査が行われましたが、経済的に引き合わず地元で細々と利用されたのみでありました。静岡では掛川付近にリン鉱床が確認されたようです。

過石(過リン酸石灰)

 製造された一番古い化成肥料がこの過リン酸石灰です。製造者はかの有名なローザムステッド農場の所有者であるローズ卿です。当時は動物の骨や古戦場の人骨が原料として利用されていましたが、現在はリン鉱石を使っています。

 日本への導入は、高峰譲吉博士が1884年に行いました。肥料会社の宣伝の影響で北海道では昭和の時代まで肥料といえば過石のことを指していました。(他の地域では大体硫安)

 石灰との結合が緩く肥効がよいので配合肥料には必ず使用されます。リン酸含量は、13,5%くらいです。

カリウム肥料

 カリウムもリン酸と同じくほぼ全量輸入です。日本では海水からカリウムを採取する研究が行われていましたが、採算が取れないので現在では行われていません。

硫加(硫酸カリウム)

 カリウムの成分量が高く配合肥料によく利用されます。園芸農家には土を荒らさない肥料として好まれていますが、塩化カリと比べてコストが高いので高度複合化成肥料には塩化カリが用いられています。

塩加(塩化カリ)

 肥料用で流通している塩化カリは不純物として鉄が微量混入しているので赤色をしています。純度の高い白色の塩化と比べて赤塩加と呼ばれています。

 硫加と比べて水に溶けやすいので水耕用肥料や液肥としての利用もされています。元肥としての利用だけでなく追肥としても使われています。

 私は塩加を水に溶かして葉面散布や土壌灌注に利用しています。

 

 化成肥料を調べると各メーカーが様々なタイプの肥料を開発製造していますが、一般に流通していないものは高価で利用価値もこれまで紹介してきました肥料とほとんど変わりません。
 加工された緩効性窒素肥料や樹脂コーティングされて肥効の調節を行った被覆肥料なども販売されております。コストと効果の面で検討する価値はありますが、私は使用していません。