液肥の利用法

 液肥は基本的に化成肥料を水に溶かしたものです。液体の化成肥料を単体又は混用して植物に使用します。水耕栽培ではこの液肥を所定の倍率で希釈して使用していますが、ここでは土耕での液肥の利用法について説明していきます。

 液肥は、水に溶けているので植物の根に吸収されやすく、通常の希釈倍率では土壌に余計な負荷をかけないので追肥には最適の肥料であります。用途として、植物の茎葉に散布する「葉面散布」と株元に施用する「土壌灌注」の2種類あります。

 江戸時代より尿をかけ肥えとして作物に対して現在の葉面散布の様に利用しておりましたが、液肥として栽培技術として利用されるようになったのは戦後尿素が導入され、同時にその作物に対する葉面散布効果がアメリカより伝えられてからです。

 尿素は化粧品の保湿剤で使用されている有機物質で、人間の尿にも含まれております。肥料用尿素の窒素成分量が46%くらいと硫安の21%をはるかに上回る含有成分で、希釈倍率も作物により差異がありますが硫安よりも低いので、施用効果が非常に高い肥料資材です。「葉面散布剤」としての利用が盛んで花卉・蔬菜・作物・果樹などすべての農作物に利用されています。植物の散布尿素の吸収率は非常に高く、散布後6時間でその半量が吸収されるというデータが出ています。

 リン酸成分は、液体リン安(リン酸アンモニウム)やリン酸液などが使用されています。リン酸含量が高い液肥は大体リン酸液が用いられていますが、これは濃度を誤ると薬害を出しやすく、時期や作物によって使い方の難しい資材となります。施用リン酸の植物葉面よりの吸収は非常に遅く2~3日で半分くらいというデータがあります。薬害の危険性も高く植物の吸収率も低いのがリン酸液肥の特徴で、単体で施用することはほとんどありません。窒素資材(主に尿素)と混用して複合液肥として利用されています。

 カリウム成分は、ほとんど塩化カリが使われます。カリウム含量が高く、水に対して溶解性が高いので使いやすい資材です。葉面散布剤としては使っても使わなくてもそれほど問題のない成分ですが、土壌灌注には必ず使用したい資材です。
これら肥料3要素を混用して沈殿したいようにしたものが市販された液体肥料であります。尿素や液体リン安、塩化カリを購入してきて希釈して使用しても効果は変わりません。コスト的には非常にお得です。

使用法

葉面散布剤

 植物に葉面に直接希釈液を散布するので薬害の危険性が高いので、散布時の温度・植物の状態に注意が必要です。基本的には高温になる時間帯は避けます。散布濃度は散布可能限界濃度より低くすることが安全です。植物に対する薬害は濃度によるものが主ですが、尿素は植物に過剰吸収されることで障害をおこします。そこでショ糖(砂糖)、硫酸マグネシウムを混用することで植物に対する尿素の吸収を阻害して薬害を防ぐ方法もあります。私は砂糖を発酵させた糖分解液を混用して尿素の薬害を防止します。

使用倍率

尿素500倍~1000倍
液体リン安1000倍
塩化カリ1000倍
他に、糖分解液500倍

 これらを混用して使用します。散布液の成分量は、市販の液肥を使用したものよりも成分含有量は多いです。3要素すべてを混用することはあまりありません。農薬との混用が多いので糖分解液と尿素、時々リン安を加えます。

 散布回数は既定としてはありませんが、上記の資材を使用した場合は3日~5日間隔で散布します。

土壌灌注

 施肥効果が高い割に行われていない施肥法です。私が一番好んでいる施肥方法です。葉面散布よりも低い濃度で施用できるので散布回数が少なくて済みます。固形の肥料を施用するよりも肥効が早く出ます。よほどの回数(毎日)与えない限り過剰施用は通常ありません。特に効果が期待できる時期は高温乾燥時又は低温乾燥時に、根が弱り土壌水分の不足から肥料成分を吸収しにくいときに施用すると効果が高くなります。この場合には必ずカリウムを配合します。

使用倍率

尿素500~1000倍
硫安500~1000倍(時には硫黄補給目的で使います)
液体リン安500~1000倍(主に1000倍で混用します)
塩化カリ500~1000倍(実が付き始めたら500倍で使用します)
この他糖分解液、微量要素のホウ素を混用することがあります。

有機液肥

 有機質肥料に対するよいイメージは液肥にまで及ぶようです。一般的に、水に溶けて、分子量の小さい物質でないと液肥として利用できません。この意味で、化学肥料は液肥として有効に利用できます。有機物の中で液肥として利用されている(原料として記載されているものは)ものは、単用ではカツオソリュブル(又は魚ソリュブル)、糖分解液、お酢です。混用されているもので、各種アミノ酸、塩加コリンのような生長促進効果のある有機化合物などです。ホルモンや微生物資材の関係は除きます。それぞれ簡単に説明します。

カツオソリュブル(魚ソリュブル)

 食品加工会社より出されるカツオ(魚)の廃液を加工したものです。有機農法に使用できる資材としてとして認定を受けているので結構知名度はあります。ある学者が「分子量8000のタンパク様窒素化合物を植物は好んで吸収する」と発表されたので信者が増えました。

 分子量が大きすぎるので、葉面よりの吸収は期待できません。土壌灌注するにも成分の割に金額が高いことと、肥効を発揮するには微生物の分解を必要とするので、地温と土壌中の水分に肥効が影響されます。又過剰に施肥すると発酵してしまい、土壌中で酸素不足や有害物質が生成することがあります。成分が低いので施用量が少ないと効果が少なく、施用量が多いと土壌中で障害を起こすという使いにくい資材です。
 元肥の代わりに施用する方法が一番無難な使用法です。

糖分解液

 多くの液肥に利用されている有機物が糖分解液です。ショ糖は分子量が大きいのでそのまま水に溶かした状態では植物には吸収されません。これを酵母の力を借りて分解して低分子の形にしたものが糖分解液です。甘い香りがします。長く置くと酸っぱいにおいもしてきます。

 葉面散布剤に使用します。尿素の薬害防止としてと植物体に薬液を付着させやすくする目的で混用します。天候が悪く又気温が高くて窒素肥料が利きすぎた時は、この糖分解液を単用200倍くらいで散布します。葉が垂れ下がらずぴんと立ってきます。

 私は砂糖を利用してポリタンクで製造しています。少なくなると砂糖と水を継ぎ足して再生産します。

お酢

 食用酢のことですが、農林水産省はこれを特定農薬としています。農薬として記載しなくてはいけないので現在は食用酢はやめて糖分解液を使用しています。

 窒素過剰で葉が垂れ下がったときに利用すると効果てきめんで、葉がたってきます。この場合の利用法は食用酢単用で50倍くらいです。100倍でもよいのですが効果はかなり低くなります。

アミノ酸

 アミノ酸の効用を謳った液肥は多くあります。もちろん根拠になる学者の論文があるのでしょうが、私が知る限り植物に吸収されたアミノ酸の量を明記した論文はありません。植物に吸収されないアミノ酸は、微生物に分解されて無機態窒素(アンモニア態、硝酸態)となって植物に吸収されます。つまりアミノ酸としての直接的な効果はないわけです。

 不確かなアミノ酸の効用ですが、液肥として利用できるかどうかもう一つの視点から確かめることができます。それは水に対する溶解度です。味の素より発行された「アミノ酸辞典」よりアミノ酸の溶解度の数値をまとめました。水に対する溶解度の高い順です。

名称 分子量 水に対する溶解度(20℃)(g/100㎖・H2O)
L-プロリン 115.13 155
L-システイン塩酸塩―水和物 175.63 110.4
L-アルギニン塩酸塩 210.66 73
L-オルニチン塩酸塩 167.62 54.5(水温25℃)
L-リジン塩酸塩 182.65 53.6(水温10℃)
L-セリン  105.09 38
L-ヒドロキシプロリン 131.13 34.52
グリシン 75.07 22.5
L-システィン 121.16 16
L-アラニン 89.09 15.8
L-アルギニン 174.2 14.8

 水に溶けやすいアミノ酸を紹介しました。アミノ酸液肥でよく登場するグルタミンとグルタミン酸の溶解度は以下の通りです。水に対する溶解度(20℃)(g/100㎖・H2O)

L-グルタミン  3.73
L-グルタミン酸 0.72
全く水には溶けません。

 私が液肥に使用している化学肥料の溶解度はこちらです。水に対する溶解度(20℃)(g/100㎖・H2O)
尿素       107.9
硫安        74.4
塩化カリ      34.2

 見比べてみますと、3種類のアミノ酸(プロリン、システィン塩酸塩―水和物、アルギニン塩酸塩)は水に対する溶解度が高く液肥としても有効であると考えられます。塩化カリ並みの溶解度を持つヒドロキシプロリンまでは液肥としても使えそうですが、その他のアミノ酸では水に溶けないので使用はできません。何か特別な界面活性剤で溶解しない限りそのまま水に溶かすことはできません。

 なぜ水に対する溶解度が重要であるかというと、液肥は水に溶かして使用するものであることと、もう一つは水に乗って移動できないと微生物による分解を経て無機態窒素となって移動することになるからです。結果的に化学肥料の散布とそう変わりはありません。

 水に対する溶解度の点から見ても、肥料効果としては化成肥料が有効であることがわかります。

塩加コリン

 塩加コリンは家畜の使用に添加されるビタミンBです。1964年にカンショの発根促進作用があることが発見され研究が始まりました。

 光合成促進作用があるとしてこの塩加コリンをもとにした植物生長調整剤「サンキャッチ液剤」が開発され販売されています。現在ではサンキャッチ液剤の製造メーカーが液肥にその技術を取り入れ塩加コリンの入った液肥を販売しています。

「サンキャッチ液剤30S」をニンニクに使用したことがあります。散布区は葉の退色が遅れ遅くまで緑色をしていました。収穫して比較したところ散布区のニンニクのほうが根重量は高かったです。この点では塩加コリンの効用を認めるものです。ただ、問題はコストです。倍以上の収穫増であるならば喜んで散布しますが僅かな収穫増ではサンキャッチを購入して散布する気持ちにはなりません。(とにかくサンキャッチ液剤は高い)

 塩加コリンは、水に対する溶解度も高く植物に対しても浸透するスピードも速いので液肥としては有効な物質です。

 ビタミン類が植物生育に効果があるといわれたのはかなり古い話です。古書では住木諭介博士の「植物ホルモン」(1951)が早い方です。当時は日本においてジベレリン(ギベレリン)が発見され、植物ホルモン熱が高まったことと関係があるのかもしれません。

 ジベレリン(ギベレリン)の発見(結晶化)は薮田貞次郎博士と住木諭介博士の研究によるものですし、ビタミンB1の発見は両博士の師である「鈴木梅太郎」博士の研究によるものであるから、縁はあります。

 塩加コリンのほかにも有名なものは、5- アミノレブリン酸を利用した液肥が販売されています。光合成能力を高める効果があるといわれています。私は簡単な実験しか行っていませんがよくわかりません。

 その他にもいろいろな化学物質が植物の生長に有効であると宣伝されていますが、魔法の薬は存在しません。適切な栽培法が一番良品多収への近道であります。